北朝鮮核廃絶の行方

アメリカのキングメーカーであるキッシンジャーとCFR(外交問題評議会)はオバマ大統領を選んだ時から「時代が変わる」(アメリカ主導から中国へ)ことを感知していた。
だからオバマ大統領にもトランプ大統領にも「アメリカは最早世界の警察官ではない」と言わせたのである。
世界の覇権は18世紀から20世紀までは大英帝国(パックスブリタニカ)へ、又20世紀からはアメリカ(パックスアメリカーナ)へ移った。本年3月、CFR会長リチャード・ハーンが「リベラル世界覇権の死」という論文を世に出したことでキングメーカーがアメリカの世界覇権放棄を正式に宣言したことになった。トランプの使命は世界覇権に君臨しているエスタブリッシュメント(現行勢力)の国家主導権をホワイトハウスに取り戻すことである。
私は「世界の問題はアメリカの国家主権争いの縮図である」と述べてきた。
目前に迫ってきた朝鮮南北首脳会議、米朝会談の行方はトランプとアメリカの現行支配勢力(以後軍産という)とのコンフリクト(闘争)の行方でもある。
1972年2月訪中したニクソン大統領とキッシンジャーは毛沢東と周恩来に「アメリカのアジア覇権は将来中国に譲る」と約束し、さらに目前に迫っていた沖縄の日本返還で尖閣諸島を除くことで人民解放軍の巨大化に伴い日中が軍事対立するよう火種を撒いている。キッシンジャーがトランプに要請しているアメリカの覇権放棄は、とりもなおさずアメリカのアジア覇権を中国に移行する為の準備に他ならない。(お断りしておきますが私にはキッシンジャーが何を考えているかよくわかっています。)これから始まる南北、米朝会談はアメリカのアジア覇権を中国に移行する為の過程と考えていい。アメリカが「金正恩体制を崩壊する意思はない」と公式に述べていることは「北朝鮮の核保有容認」を意味する。核廃絶方式が段階的(中国主張)であれ一括妥結(アメリカ)であれ金正恩体制が温存する限り、隠れ核施設、隠れ核弾頭庫を完全に廃絶することは不可能。イラクやリビアの核施設とICBMが完全かつ検査可能、不可逆的核廃絶(CVID方式)が出来たのは体制を崩壊し、首領を抹殺したからである。金正恩は4月21日、核の運搬手段(ICBM)が完成(米本土攻撃能力)、かつ核の兵器化(核弾頭製造)の確認が出来、核実験も中、長距離大陸間弾道弾の発射実験も必要がなくなった、さらに北部核実験場(プンゲリ)も不要になったので廃棄すると発表した。又同時に「我が国に対する核の脅威や核の挑発がない限り、核兵器を絶対に使わず、核兵器と核技術を三国に移転しない」とも宣言した。金正恩は南北、米朝会談を前に自発的に核実験、ICBM発射を中止、6回続けてきた核実験場の解体を進めることで両会談の主導権を握ろうとしている。先ず北部実験場を解体し、次はミサイル施設などと段階的核・ミサイル廃絶方式へ誘導する戦略である。
南北、米朝会談の優先順位が北朝鮮の核廃絶になるのか南北和解、平和条約が核廃絶の前提条件になるのかで核廃絶の成否が決まる。核・ミサイル廃絶優先は東西冷戦時の米国対ソ連のデタント(兵器削減)やSTART(戦略兵器削減条約)と同じで、北朝鮮の核廃絶などあり得ない。南北和解、平和条約優先、先行なら朝鮮戦争(1950)以来の在韓米軍は不要になり、米朝和解先行、さらに米朝平和条約なら北朝鮮の核・ミサイルはアメリカの脅威ではなくなる。金正恩は今後経済優先路線なので南北和解優先方式。一方アメリカは米朝和解では対北軍事・経済圧力で核廃絶を主導することが出来なくなる。トランプは「対北軍事・経済圧力を緩めない」と言っているので米朝和解後回しの方針。核廃絶優先なら南北戦争状態(敵同士)での双方脅威(韓国は北の核・ミサイル、北は在韓米軍)の廃絶だから、いつまでたっても双方の脅威は廃絶しない。これではトランプの敵の軍産がアジアに居座ることになる。トランプが文在寅に南北和平を優先させるかも知れない。軍産にとって最も恐ろしいのは南北和平だからだ。北朝鮮核廃絶問題での見どころは南北和解がどのように位置付けられるかである。

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